〜第一章〜
正しい女子生徒との付き合い方(8)
「し、下着…ですか…?」
彼が少しの沈黙をこの一言で破った。
彼は顔を真っ赤にしてはにかみながら言った一言だった。
「そ、下着よ」
頷きながら祐は答えた。
「こんなのとか、こーんなのとか…」
くいっくいっと手でその凄さを表現しているらしいがはっきり言って解らない。
とにかく凄いらしい。
「他にも制服やら何やらが盗まれているらしいわ」
くいっくいっと動かしていた両手の指同士を絡ませ肘を付き顎を軽く乗せる。
「ねぇ、美奈子?」
「う、うん」
そう言ってこくんと頷く。
顔は紅潮していて、なぜかいつものようにニコニコしたりじっと見つめることはなかった。
むしろ貴冬の顔をちらっとみてはすぐ俯くような感じである。
おかしなことにその格好は制服ではなく体育服姿であった。
「はぁ…」
返事をするものの、彼にはなんの意味だかさっぱり解らない。
つまり簡単に説明すると…
「信じたくはないけど…貴冬くん。君が犯人だって噂が立ってるのよ」
と、言うことだ。
「な、なんですとぉぉぉ!?」
その声はこの校長室を中心に響いた。
「で、ホントのところは?」
「そ、そんな…俺じゃないです!」
「ホント?」
「絶対です!」
「ホントのホント?」
「やろうとも思いません!やりたいとも思いません!100%です!!」
とにかく全面否定。
実際に彼は犯人ではないのだから仕方がない。
と、言うよりも彼がそんなことをできるほど彼の心臓は大きくはない。
それより何より彼は女子のものを触るのにも極度の緊張を起こすだろうから。
「…ふぅ、だってさ。良かったね美奈子」
その言葉を聞いて美奈子の表情は華やかになる。
先ほどまでの暗い感じはなく、いつものような笑顔を貴冬に魅せていた。
「じゃぁ、犯人は他にいるってことね…。二人はもう授業に戻りなさい」
ガラ!
教室に入るとざわめきが途端に沈黙と変わった。
…うわ。
教室にいるもののほとんどの視線が貴冬に降り注いだ。
それだけでも問題だが、その視線ひとつひとつが嫌気にも似たものがこもっていた。
宮田先生はまだ来ていなかったのも先ほどのざわめきのひとつの原因であろう。
主因はやはり『噂』の所為だと思うのだが…。
つまり、朝の出来事はこのことが原因だったのだ。
皆の視線を我慢しながら自分の席へ移動し、着席した。
彼の席は一番後ろという厄介な場所にあったため、彼が近くを通るとわざと机を離すものもいた。
「……はぁ」
これからも、こんな状態が続くのかな…。
そんなことを考えていると、前の席の娘がくるっと後ろを向いてこう言った。
「ねぇ貴冬!貴冬が下着ドロだってホント〜!?」
由美子であった。
由美子の声を聞いて、クラスの皆が一斉に貴冬に視線を向ける。
その中には千恵美、由紀、香織の姿もある。
…うわ。
やはり貴冬にとってはそうとうやりにくいらしい。
しかしここで彼が弁解しなければこのままである。
頑張れ貴冬。男となるのだ。
「いや、あれは俺じゃないよ」
その言葉にまたクラスがざわめく。
「じゃぁ!アンタが犯人じゃないって証拠は?」
クラスの1人がそう言った。
「証拠なんかないよ…でも」
すぅっと軽く息を吸いこんで言い放った。
「その犯人…、俺が捕まえれば無罪放免…だろ?」
その言葉にクラスの皆は動揺を隠せないでいた。
「犯人…俺が捕まえる」
ガラ!
「ごめんなさぁーい!色々あって遅れて…ってあれ?」
丁度よく現れた宮田先生のおかげで貴冬への視線は消えてしまった。
「じゃぁ授業始めるよー」
…なんか、勢いであんなコト言っちゃったけど…。
うん、こうなったらヤケだ!
彼は気合を入れなおして、犯人を捕まえることを心に刻んだ。
しかし
「貴冬カッコよかったよ♪」
由美子のその言葉で気合はぷしゅうと音を立てて彼の口から煙となって外へ出て行くのであった。