〜第一章〜

正しい女子生徒との付き合い方(9)


きーんこーん…

放課後のチャイムがなった。

いつもどおり…ではないが、生徒は帰宅や部活の準備をする中…。

彼はずんずんと廊下を直進していく。

彼が通ると廊下で話をしていた生徒達の笑い声がこそこそと内緒話へと変わっていた。

しかもちらちらと冷たい視線を彼に送って来るのは彼も気付いていた。

…せめてはっきりと目の前で言ってくれた方が居心地いいのに…。

そんなことを考えながら彼は廊下を歩く。

目の前で言われたら話もできなくなるだろうに。

「貴冬くん、また見られてますよ」

彼の隣りで一緒に歩く千恵美が冷たくそう言った。

千恵美は先ほどから貴冬がチラ見されるたびにその言葉を貴冬に言っていた。

「うん、そうだね」

「…」

貴冬がそう答えると彼女は無言で彼をジロっとにらむ。

…俺に一体何をしろと?

彼にはなにがなんやらわかってはいないらしいが、彼女には色々と理由があるのだろう。

ちなみに彼がいま緊張していないのは、これにも色々理由があるのだ。

犯人を捕まえるという大きなプレッシャーが彼に圧し掛かっているせいであろう。

ちなみに彼女が彼とともに行動しているのは彼一人ではまた犯人扱いされる危険があるから…らしい。

彼が犯人だったとしても犯行を防げるから…だとか。

 

 

 

そんなこんなで時計は7時を回ってしまった。

二人はまだ校内を探索していた。

「…見つからないな」

もちろん犯人のことである。

特に怪しい人物もおらず(全員女生徒であるため)、もしかしたらすでに犯人は行動に起こしているかも知れないし、まだかも知れない。

「な、なんだかワクワクしてきますね♪」

千恵美がそう口にした。

暗くなってきて、校舎内がちょっとした雰囲気を出し始めたからであろう。

「と、言うか…さすがに不気味…のような気も…」

そんな時…

「きゃぁぁぁ〜〜〜〜!!」

女声での悲鳴が校舎内に木霊した。

「きゃぁ!!」

「うぁ!?」

悲鳴を聞いて驚いた千恵美が貴冬の横っ腹に抱きつく。

それが問題で貴冬は顔を真っ赤にして慌てふためいた。

「ちょ、な、え?」

慌てはしたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「あぅ…」

千恵美の具合が急激に悪くなったからである。

貴冬は少し考えた。

「え〜と、す、少し我慢してくれよ?」

そう言って彼は彼女を背中に背負い、ダッシュで悲鳴の元へと走り出した。

その間、彼の顔から蒸気が音を立てて上がるのは言うまでもなかった。

 

 

 

「ど、どうした!?」

悲鳴が聞こえてきたのはどうやら二年生の教室からだった。

「あ、貴冬くん…」

そこには、美奈子さんが倒れていた。

「美奈子さ…」

彼が教室に入ろうとしたその時である。

ダッ!

何ものかが教室から出て行くのがわかった。

「な!?」

素早くてよくわからないが、犯人と思って間違いはないだろうと彼は考えた。

「〜!!」

貴冬は背負っていた千恵美を美奈子によろしく言って、犯人の後を追った。

貴冬は素早く階段を降りていった。

犯人は一段抜かして進むも、彼は階段全てを飛んでしまっているので一気に差が縮まってしまった。

さすが、人一人背負って走りまわるほどの健脚である。

着地の反動など関係なしである。

これには貴冬自身も驚いてはいたが、そんなことより犯人を捕まえるのが優先事項だったらしい。

「つ、捕まえたぞ!」

階段を降り終えて、廊下を少し進んだ所で彼は犯人を捕まえた。

 

 

おとなしくなった犯人を連れて、彼は二年生の教室へ向かった。

教室には美奈子と、具合を悪そうにしている千恵美の姿があった。

「あ、貴冬くん!」

真っ先に気付いたのは美奈子だった。

「美奈子さん…、この人知ってますよね?」

そう言って貴冬は犯人を軽く前に出した。

「え?…もしかして、真美ちゃん?」

真美(まみ)と呼ばれた人物はびくっと身体を揺らして顔を上げた。

「あ、あの…」

そう言って彼女は頭を下げた。

「ご、ごめんなさい!美奈子ちゃんの制服とか、下着とか盗んだの…。私なの…」


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