〜プロローグ〜


「………落ちた」

ざわざわと周りで歓びの声などを上げている人ゴミの中。

一人の少年はそう一言呟いた。

そう、『落ちた』…である。

何が落ちたのかと言うのは周りを見てみればわかるだろうと思う。

そう、ここはとある高校の校内。

その校内に立てられている看板の前に彼は立っていた。

看板には張り紙が張られ、彼はその張り紙をぼーぜんと見つめていた。

その見つめている目には光がなかった。

これが『落ちた』の原因である。

高校入試。

彼はその高校入試に落ちたのである。

あまりのショックに彼は三時間ほどその場に立ち尽くしたくらいである。

意識を取りもどして自宅に帰るも、彼に普段の元気はなかった。

彼の父親も

「はっはっは。男がそんな小さい事でちっちゃくなってどうする!?」

彼にとってはそんな事でも小さい事でもなかった。

このときばかりは彼も自分の父親の能天気さには呆れたくらいである。

「お兄ちゃん…、しょうがないよ。元気だして?ね」

このときに彼は慰めてくれたの彼の妹を天使にさえ見えたくらいであった。

しかし、結局行く場所のない彼はやはり元気がなかった。

そんな時である。

親戚の叔母から、彼の父親の元にある電話がかかってきた。

「お〜い貴冬。良い知らせかもしれないぞ?」

「あぁ?良い知らせだぁ?」

ぐれている。明らかに彼はぐれていた。

普段だったらこんな喋り方はしないのだが今回ばかりはしょうがない。

そんなことよりもったいぶらずに早く内容を言え!!彼はそう思っていた。

「なんか祐(ゆう)おばさんが経営している高校に、特別に入学させてくれるってさ」

「な、なにぃぃぃ!?」

彼の父親が『くれるってさ』と言いきる前に彼は叫んだ。

彼にとって最高といっても過言はないほどの幸運な知らせが舞い込んだのだ。

こんなチャンスを逃す手はない。

彼に迷いは無かった。

「行く!!俺、その高校に入学する!!!」

「良いのか?ここから、結構…っていうかかなり遠いぞ?」

「良い!!遠くて結構!」

こうして彼は悲願の『高校入学』のキップを手に入れた。

しかもテストなしで…。

彼は荷造りをし、その高校のある『都会』へと向かうのであった。

「あっちについたらちゃんとこっちに報告。それだけは忘れるなよ?」

「お兄ちゃん…、気をつけてね?」

そして彼は『都会』へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 

とあるマンション。

その一つのドアの前に彼らは立っていた。

彼というのはもちろん今井 貴冬で、もう一人はその叔母 祐であった。

「ここが今日から君の家よ」

そんなことを言いながら叔母はドア開けて彼を招いてくれた。

「あ、おかえりなさい〜」

中に入ると、優しそうな笑顔を浮かべた女性が現れた。

「君が貴冬くん?いらっしゃい」

エプロンをつけて、どこか大人しげな感じだった。多分年上であろう。

「この子が娘の美奈子。貴冬くんと同じ高校の二年生よ。美奈子、貴冬くんと仲よくしてね」

「どうも、今井 貴冬です。よろしくおねがいします」

彼はそう言ってぺこりと頭を下げた。

「美奈子です。こちらこそよろしくね」

一つ一つの仕草に彼、つまり貴冬はどきどきしていた。

二年生とはつまり一つ上である。しかもかわいいのである。

こんな子と一緒の家に住むことになるなんて!

っと言っても彼自身女の子との付き合い方など知らないわけなので違う意味でもどきどきしていた。

「同じ高校…ってことは?あれ?」

美奈子は『あれあれ?』と繰り返し悩む仕草をしていると、祐がこう口にした。

「ほら、貴冬くんは高校入試で……」

そこまで話すと美奈子も納得したようにこくこくとうなずいた。

ふ、どうせ落ちたよ。あぁ落ちたさ…。

貴冬はあの頃(高校入試)のことを思い出して少し気持ちが沈んだ。

彼女はにこにこ笑顔のまま『じゃぁ夕食のしたくするようだから』と言ってぱたぱたと奥へいってしまった。

「貴冬くん、じゃぁいまから君の部屋に案内するからついてきて」

叔母のあとについて自分の部屋になるであろう場所についていった。

これからが夢のどきどき都会暮らしの始まりである。


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