〜第一章〜

正しい女子生徒との付き合い方(7)


ざわざわ。

二人が教室に入ると何やらざわついているのがわかった。

何かを話しているみたいだったが、貴冬ほとんど気にしていない。

むしろざわついていることより女子がたくさんいることを気にしている。

どうやらこの男は自分から参加するのが苦手のようだ。

『触らぬ神に祟りなし』

彼のそういう所を見るとそんな言葉を思い浮かべるだろう。

女の子が苦手なのもこういうことが重なるからであろう。

「……」

無言のまま貴冬は自分の席、つまり一番後ろの席に腰掛けた。

と、その時。一人の女子が貴冬の存在に気付いた。

「…あ」

貴冬と目があって数秒の間の後に彼女はそう口にした。

彼女の声に反応して数人の女子が貴冬の存在に気付く。

「え」

「う」

それが連鎖反応となって千恵美以外の全員が貴冬に視線を送った。

千恵美の場合はまだ教室に入ってきたばかりで状況がよく解らないでいるみたいだ。

最後には貴冬自身が声を上げることになった。

「……え?」

なななななんなんなんなん…なんなんだ?

何で皆こっちみてんの?

俺の顔に何か付いてる?それとも格好?

予想しない自体に慌てる貴冬。

そりゃ女の子が苦手なのに大勢に見つめられれば混乱もするだろう。

そんな彼がこういう状況で顔が赤くなってあたふたしても大目に見てあげよう。

そんな時である。

「おはよー…」

小さな声で挨拶しながらトロトロと教室へと入ってきたのであった。

香織であった。

そのあとに続いて由紀・由美子の姿があった。

その姿をみて皆の視線の向きが変わった。

貴冬はぷひゅるる〜と、間抜けな音を出して口からは白い煙が上がっていた。

由美子の姿をみた千恵美はすっと近付いてぼそぼそ話しをして二人でどこかへ行ってしまった。

意識が戻った貴冬は、たしかにその姿を見ていた。

…これで仲直りしてくれるかな。

考えていた不安が一気に解放された気分を貴冬は味わっていた。

良く見ると貴冬の顔は軽く笑っているように見えた。

貴冬がニコニコしていると、香織と由紀が貴冬の所まできて挨拶をした。

「おはよう貴冬くん。えっと…ありがとね」

そう言って香織はニコっと笑う。

隣では由紀もペコッと頭を下げていた。

貴冬はというと…

「い、え、俺…は何も」

当然、いきなり声を掛けられたこととありがとうと言う言葉で顔を真っ赤にしていた。

ヤカンでも置けばお湯ができるのではないか。

「あは。変な顔」

香織がそう言ってくすくすと笑う。由紀もそれにつられて笑いだした。

「香織ー。由紀もこっちきてー」

先ほどまで、ざわざわしていた女子の円の一人がそう言って手招きをしている。

他の数人の女子はじろじろと貴冬を見る者もいた。

中には怒っているような者も…。

無論、今の貴冬の頭の中にはそんな情報など入ってこない。

もう少し女の子に慣れましょう。

「なんだろ?」

そう言って二人は貴冬から離れて行ってしまった。

その時である。

『一年五組 今井 貴冬くん。至急校長室にきてください』

ぷしゅうと湯気をだしていた貴冬はこの放送を聞いて元に戻った。

「…なんだろ?」

さっきの香織と同じような口調で貴冬は教室を出て行くのであった。


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