〜第一章〜
正しい女子生徒との付き合い方(6)
「そういえば昨日の考え事はまとまった?」
貴冬の隣りを歩く美奈子が彼にそう質問した。
昨日貴冬は帰宅してからと言うもののずっと考え事をしていた。
それを心配した美奈子はそう聞いてきたのだろう。
「はい。多分大丈夫です。心配ありがとうございます」
ホントは大丈夫じゃないくせにそう言ったのは女の子との登校を楽しんでいるからであろう。
どこかしらいつもより顔がゆるんでいるようにも見える。
あきらかに喜んでいる。
「うん、良かった♪昨日はずっとムスっと怖い顔してたから心配だったんだ」
そう言っていつものようにニコニコ笑顔に戻る美奈子。
美奈子さん…優しいなぁ…。
どうやら彼はこの手の女の子に弱いと断定。
「あ、貴冬くん。貴冬くんってなんか微妙に敬語だよね?」
「え…」
それは美奈子の方が年上だし先輩だし…。
「やっぱり普通に話してくれたほうが私はうれしいんだけど…。どう?」
「え〜と、じゃぁ気をつけてみます…。じゃなくて、気をつけるよ」
ジロっと見られた直後に言い直す。
「うん。それで良し♪」
ニコニコ笑顔でそう言ってるんるんと歩く美奈子。
「あ、そうだ!」
もう一度こちらに振り向いて口を開く。
「これから同じ家に住むって事だから…、私は年上。貴冬くんは年下。つまり弟♪」
ニコニコしながら自分と貴冬に指をさす。
貴冬は弟と言う言葉に寂しい思い嬉しい思いが出てきていた。
弟…、好い響きだけど恋愛対象じゃないね。アブノーマルに考えなければ。
「じゃぁこれからは私のことをお姉ちゃんって読んでね♪」
「ぐは!?」
いきなりの不意打ちに間抜けな声を上げる貴冬。
美奈子さんと呼ぶだけでも恥ずかしい貴冬にお姉ちゃんなんて呼べるはずもないだろう。
ってか言ったらボンッ!て音を立てて倒れそう。
「私昔っから弟か妹のいるお姉ちゃんになりたかったんだぁ〜♪」
貴冬のぐるぐる回る頭も関係なしにそう言ってニコニコ笑う美奈子。
「ね、呼んでみて?」
ずいっと近付く美奈子。
「!?」
急に近付かれて動きを止める貴冬。
彼の顔はすでに赤くゆで上がっている。
そのうえ身長差があるので美奈子が貴冬を見上げる形となっているのが一番の不幸…逆に取れば幸せでもあるのだが。
くわしくいうと、先ほども言ったが美奈子は貴冬よりも10cm以上身長が小さく彼のことを見上げている。
そして彼女は着ている服はボタン式である。
つまりそのボタンの開きから水色の物体が見えるのである。
そんなわけでただでさえ緊張する貴冬がさらに緊張しているわけであって…。
「あ!も、もうこんな時間ですよ!!は、早く学校に行かないと!」
そう言ってパパッと美奈子から離れて走り始める貴冬。
「あ〜、逃げなくてもいいのに〜!」
そう言って美奈子も後ろからついてくるのであった。
「あ」
「あ」
下駄箱でふっと顔を合わせて同時に声を出した。
「おはよう」
「…おはよ」
どうやら千恵美はまだ貴冬のことは苦手らしい。
というより昨日の今日であった上に男性恐怖症とあっては当たり前か…。
「昨日、あの後…大丈夫だったか?」
貴冬が心配しているのは手を触れたあとのことである。
「うん。大丈夫。えっと……」
そう言ってこちらを見てそっぽを向いてを繰り返す。
「…なんだ?」
「その…イジワルしてごめんね」
そう言ってペコッと頭を下げる。
「…え?」
いきなりのことでびっくりする貴冬。
まさか謝られるなんて思いもしなかった。
彼自身は昨日の彼女の態度を見て、こんな彼女を想像しようとも思わなかった。
「私、昨日は少しビックリしてたんだと思う。だから、ごめんなさい」
「い、いいよ。そんな…」
なるほど、赤井さんと室田さんが言ってたことはこのことか…。
そう思いながら赤くなっているであろう顔をかくすように教室へ向かおうとする。
もちろん不意打ちであんな一面を見せられたためである。
何度も言うようだが彼は女の子の免疫はないのである。
そんな貴冬の隣りまで早歩きで追いついてくる千恵美。
…今日はなんか不意打ちが多いな…。
そんなことを考えながら貴冬は千恵美と一緒に教室へ入るのだった。