〜第一章〜
正しい女子生徒との付き合い方(4)
その夜のこと。
貴冬は早澤家(祐叔母さん家)のダイニングルームで、う〜んと考え事をしていた。
「どうしたの貴冬くん。あ、もしかして口に合わないかな?」
まゆをひそめながら食事を取る彼に気付き、美奈子が心配そうに声をかけた。
彼はいまだけでなく、家に帰ってきてからもずっとこの調子である。
「いえ、そんなことはないですよ。とてもおいしいです」
美奈子に声をかけられて、笑顔をみせるがまたまゆをひそめる。
「また変な顔…。もしかして学校で何かあった?」
「まぁ…そんな感じですね」
的中だった。
もちろん彼が考えていることは放課後の出来事である。
「貴冬〜くぅん。初めましてぇ〜…かな?」
貴冬を発見した香織がのろのろと近付いてきてそう言った。
どうやら彼女は自分を嫌がっているワケではない。
直感だが、っていうかここで話かけてくる時点でそうだと悟った。
なぜかとても眠たそう、というより目覚めたばかりのように感じるのは気のせいか?
「あ、初めまして」
「私は赤井 香織で、こっちは室田 由紀って言うんだ」
香織に紹介されて、由紀はぺこっと貴冬に頭を下げた。
とりあえず三人は一緒に帰ることになった。
香織は帰り道に少しずつ目が覚めて(?)来たのか、喋り方も変わり半開きだったまぶたもいまでは全開(?)であった。
由紀は引っ込み思案なのか、はたまたなれない男子がいる所為なのか、あまり口数は多くない。
貴冬はと言うと、やはり女子は苦手なようだ。
どきどきしながら香織の話を聞き手に周っていた。
そんな時である。
「貴冬くんって、やっぱりチエのこと気にしてる?」
「へ?」
いきなりの質問で間の抜けた声が出てしまった。
そのうえピンポイントである。
「あのね、チエってば何か感じ悪そうに見えるけどさぁ…。ほんとは良い子なんだよ」
香織がじっと貴冬を見つめて喋り出す。
いつもなら女の子に見つめられればどぎまぎする貴冬でも、香織のあまりにも真面目な視線に目を奪われた。
「多分あの子びっくりしてるだけだと思う」
「わ、私も、そう思うのです」
今まで口を開かなかった由紀がそう言った。
「チエはいつも周りのことを気遣ってくれて、とても良い子なのです。だから、貴冬もチエのこと嫌いにならないでほしいのです」
今まで喋らなかった分、はっきりと由紀は言った。
「うん、わかった。約束するよ」
貴冬がはっきりそう口にすると、彼女はにこっと彼に笑顔を見せた。
「それで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
ふわぁ…で、でかい…なぁ。
貴冬は目の前の建物を見て絶句した。
都会ってすごいな…。
都会が全部こういうわけではないのだが…。
まさに豪邸。
千恵美の家はよほどのお金持ちなのか…。
いなか者の貴冬の目にはそれほどに写っていたのだった。
そう、ここは早川 千恵美の家の前。
貴冬は例の二人に、千恵美の家の場所を教えてもらったのである。
二人は『一緒に行った方が良いかな?』と言ってくれたが、やはり二人きりで話がしたかったためそれは断った。
ぴんぽ〜ん。
『はい。どちら様でしょうか?』
「あ、えっと、千恵美さんのお友達なんですが…、千恵美さんいますか?」
どきどきびくびく貴冬はそう返事をする。
えっと、なんていったっけこれ?
初めてのインターホン越しの会話である。
緊張するのも当たり前である。
そんな時に顔がひくひくしてもしょうがないのである。
『お嬢様のお友達ですか。いま開けますので少々お待ちください』
…お、お嬢様?
そんなことを考えていると、大きな門がぎぃぃと音を立てて開いた。
緊張しながら貴冬は中へと進んだ。
うわぁ…、い、池?
初めて直に見る光景に、彼は感動(?)の声を漏らした。
「この部屋で少々お待ちください」
インターホンの時と同じ声で彼女、つまりこの家の召し使いさんであろう人がそう言って部屋をでていった。
きょろきょろ。
とりあえず部屋を見回す。
いなか者の彼にとってはめずらしい、というよりいなか者でなくてもめずらしいものが多数置いてある。
う…、落ちつかない。
じわりじわりと背中に嫌な汗が流れるのを感じる。
そんなときである。
がちゃ。
扉が開かれ彼女、つまり千恵美が部屋に入ってきたのである。
「よ、よう」
とりあえず片手をずびっ!と上げて挨拶をする。ちなみに手を上げることに意味はないのである。
「…」
彼女はなにがなんだか解らないと言った風だった。
あれ?私はお友達が来たからってこの部屋に来て、たしかに誰が来たのかは聞いてないけどいま目の前にいるのは…。
見たいな感じ。
貴冬もそろそろこの沈黙を打開しようと考えていたころ。
千恵美は一歩踏み入れた足をまた後退し、ぎぃとドアを閉めようとした。
「ちょぉっとまった!」
それを止めようと勢いよくドアをつかむのであった。
「と、とりあえず話だけでも…。うん。そうだ。俺は話をしにきたんだ」
まだ目の前の出来事を把握していない千恵美は誘われるまま、その部屋へとまた足を踏み入れるのであった。