〜第一章〜
正しい女子生徒との付き合い方(3)
「先生!なんで男子が女子高に入ってくるんですか!?説明してください!!」
一人の女子生徒がバン!と机を両手で叩いて怒鳴った。
声の主は千恵美であった。
あぁ…、やっぱりいたよ。めちゃくちゃ嫌われてるし…。
はぁ。と溜息をついて貴冬は彼女の後ろ姿を見つめた。
ちなみに彼の席は一番後ろのど真ん中だった。
この位置からではクラス中を見渡せる、とても良好なポイントである。
しかし逆を言えば周りからは自分が丸見えである。
彼自身はそんなこと気にもかけていないみたいなのだが…。
「わ、私が決めたことではないのです。私に言われても困りますぅ…」
本当に困ったように宮田先生は言った。
「う〜!!」
彼女はいきなり貴冬のほうをぎらっ!と睨みつけて勢いよくイスへと腰かけた。
よほど男子が嫌いなのか、それとも貴冬自身が嫌われているのか…。
っていうか…かわいい顔が台無し…。
貴冬はこの歳になるまで、同じくらいの女の子の顔をじっと見つめたことがなかった。(ホントに小さな頃は抜かして)
だが、あそこまで勢いよく睨まれてはこちらも視線を外せるはずもないではないか。
貴冬はその女子生徒の顔を、不覚ながらかわいいと思ってしまったのである。
性格はどうかは解らないが…。
「ねぇねぇ。貴冬くん!」
千恵美が怒り、周りの生徒がそれをなだめ、宮田先生がまだおどおどとしている中。
一人の女子生徒が貴冬のほうへ身体を向けて声をかけていた。
「私は由美子っていうんだ。貴冬くんはどこに住んでたの?いまはどこから通ってるの?好きな物は?運動好き?」
にこにこと人懐っこい笑顔で彼女は貴冬を質問攻めにした。
どうやら彼女は貴冬に対して苦手意識はないらしい。
貴冬はそのことでほっとして彼女と向きあった。
貴冬も彼女があまりにも親密的に話してくれたので彼も女の子としてはかなり喋りやすかった。
とりあえずこの授業は千恵美ぷんぷん。先生おどおど。由美子にこにこで終わっていった。
時間は過ぎて昼休み。
その間の授業中や休み時間は由美子が色々と話をしてくれたおかげでヒマな思いはしなかった。
昼休みの時間も彼女は昼食を彼と一緒に取ってくれることになった。が…
「貴冬〜!一緒にお昼たべよ〜」
いつのまにか呼び捨てにされていたが、貴冬自身はそんなに嫌な気持ちはなかった。
気恥ずかしい感じではあったが、むしろ親近感があってうれしかった。
そんなときである。
「ちょっとユミ!なに男子なんかと仲よくしてるのよ!!」
急に一人の女子生徒が声を上げた。
もちろん声の主は千恵美であった。
「え?だって貴冬は−−」
「いいからちょっとこっちきなさい!!」
千恵美は有無を言わさず由美子の手をとって無理やり引っ張っていった。
「い、痛いよチエ!!」
そんな声を無視して彼女はそのまま由美子を貴冬から無理やり引き離そうとする。
「お、おい」
貴冬の声に反応するように千恵美は振り向いて言った。
「あなた、先生が良いと言っても私は絶対納得しませんから!いい気にならないでください!!」
ふん!と、由美子の手を引っ張って彼女は廊下へと出ていった。
「…な、なんなんだ一体」
ぽかんと口を開けて彼は千恵美達がいなくなった廊下を見つめていた。
なぜ彼女はあんなにも俺のことを嫌がるのか。
俺は何か悪いことをしたのだろうか。
昼休みの時間。彼はそのことを昼休み中ずっと答えのでないまま自問自答するのであった。
そんなこんなで放課後になった。
昼休みが終わったあと、千恵美と由美子の二人はバラバラに教室に戻ってきた。
そのあとの由美子の元気のなさは少し悲しかったと貴冬は思った。
彼女は貴冬の視線に気付き、かるくにこっと笑って見せたがやはり休み時間中の笑顔ではなかった。
多分、千恵美になにかを言われたのだろう。
そう思うと彼はいても立ってもいられなかった。
彼女達が喧嘩(?)する理由はやはり自分自身の所為なのだ。
教室には自分以外残っていなかったが、彼はある決心をして教室を出た。
教室を出て、スニーカーに履き替え校門まで歩く。
校門には生徒が二人立っていた。
教室からここまで、生徒は誰もみなかったので自分も合わせ最後の生徒であろう。
見た事のある顔だった。
多分同じクラスの子だろう。
その二人は、赤井 香織と室田 由紀の二人であった。