〜第一章〜

正しい女子生徒との付き合い方(2)


「ちょ、祐叔母さん!女子高ってどういうことですか!?」

ここは校長室。

声の主はもちろん貴冬であった。

怒鳴っている貴冬に対して祐は冷静に答えた。

「もちろんそのままよ。ここは早澤女子高等学校で、あなたはその女子高の生徒」

しれっとした感じに彼女は言った。

いや、そんなことはわかりましたが…。

納得できないという感じに貴冬は祐のことをじっと見つめた。

なぜなら女子高である。

高校に落ちてテストなしで入らせてもらいラッキーと思っていたのもつかの間。

「あなただって他に行く高校がなかったのでしょう?」

その言葉に貴冬はうっと口を閉じた。

痛いところを突いてこられてしまい反論できない。

ここで怒っていては意味もないし、この学校までも辞めさせられては彼の行く高校などないのだから。

でもやはり彼としては納得出来ない点はある。

「でも…女子高に男子っていうのは…」

そういう事である。

貴冬自身は女の子と親密な関係になった経験など皆無である。

女の子と会話するのも極度の緊張をようする。

そんな彼にとってクラス全員、学校全員が女子生徒というのはかなりやっかいであった。

まぁ思春期でもある彼にとっては不安以外の気持ちも溢れているのだろうが…。

「君以外の生徒も納得できない人はいるかもしれないけど、それはどうにかするわ。気楽にいきなさい。気楽に」

そんなに気楽にいければ何事も苦労はしないのに…。

彼は溜息を一つついて担任である宮田先生とともにクラスへと向かうのであった。

 

 

 

「ちょっと!!さっきの男はなんなのよ!?」

その頃の一年五組では、貴冬の登場によってクラス中で会議(?)が開かれていた。

女子高のクラスに男子が入ってくるなんて、彼女達にとってはかなり強烈だったに違いない。

中には男が苦手で女子高に入った生徒もいるだろう。

「ちょっとカオ!あんたも寝てないでなんか言いなさいよ!!」

さきほどから大声で騒ぐ彼女は早川 千恵美(はやかわ ちえみ)。

やはり貴冬の登場によって普段はここまで騒ぐはずのない彼女も興奮が押さえられないらしい。

女子高に男子だし。

「ふにゃ?どしたのチエ?」

寝ぼけ眼をこすりながら身体を机から起こしたカオと呼ばれた少女はふわぁとあくびをして千恵美のほうに向き直った。

彼女は赤井 香織(あかい かおり)。

どうやら彼女は貴冬の登場中もいまのように眠っていたらしく、周りの者に『何々?』と聞きまわるのであった。

「もしかして、先生が言ってた転校生って…」

その言葉にクラス中が『えっ?』とか『まさか!』と口々にいう。

むろん言った本人、室田 由紀(むろた ゆき)も不安と好奇心でいっぱいであった。

「はーい!もしそうだったら仲よくしてあげたほうがいいよね?」

『ね?ね?』と周りに笑顔を振り撒きながら彼女、水野 由美子(みずの ゆみこ)は言った。

どうやら彼女は男子が苦手という風ではないらしい。

「何言ってるのよユミ!もし本当にこのクラスに男子が入ってきたなんてことになったら無視よ無視!!」

極度の興奮状態に入った千恵美は不意にそんなことまで言った。

本当はそんなことになったらどきどきのくせに…。

「え〜!!チエいじわる〜!いいもんね〜。私はあの子と仲よくなるから〜」

そんなこんなで時間が刻々と過ぎて行くのであった…。

 

 

 

う、なんか騒いでる…。

貴冬と宮田は一年五組へと向かっていると、そのクラスに近付くに連れ声が大きくなっているのに気がついた。

理由はもちろん彼、貴冬の所為であることはこの二人もわかっていることだった。

ガラ!

宮田先生がドアを開けると、先ほどまでの騒ぎがウソのように沈黙に変わった。

っていうよりもう少し心の準備の時間が欲しい…。

貴冬は心の中でそう呟いた。

「今日は昨日言っていた転校生を紹介します」

その言葉にクラス中は先ほどのようにざわざわと騒ぎ始めた。

「は〜い、皆さん静かにしてください!じゃぁ、入ってきて〜」

うぅ、こうなったらもう行くしかない!

貴冬は振り絞った気力で教室内に足を踏み入れた。

貴冬が入って来た事によって、彼の思ったとおり教室はまた騒ぎ始めた。

「お、とこです!?」

「由紀の言ってたことが当たったね」

等々。

「はいはい!静かにしてください」

ぱんぱんと手を叩いて宮田先生はそう言った。

「はい。では紹介しますね。今井 貴冬くんです。皆仲よくしてあげてね」

「今井 貴冬です。よろしくおねがいします」

ぺこりとお辞儀をして顔を上げる。

やはりまた教室中が騒ぎ始めるのであった。


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