〜第一章〜
正しい女子生徒との付き合い方(10)
「ごめんなさい…」
真美はもう一度そう言った。
顔は下を向いたままだった。
「…どうして…、泥棒なんてしたの?」
「…」
そうして口を閉じる。
「その所為で、貴冬くんが疑われちゃったんだよ?私も…、疑っちゃった…」
美奈子はそう言って貴冬を見つめていた。
反省しているような、悲しいような顔だった。
と、貴冬は思った。
このときはさすがの貴冬も緊張することはなかった。
「……ばか」
「ん、何か言ったか?」
「…なにも」
千恵美がその二人のやり取りをみて頬を膨らませていた。
「…?」
いきなりの千恵美の態度に貴冬は混乱していた。
千恵美はそのままプイっとそっぽを向いてしまった。
「私…」
真美が口を開いた。
「私、美奈子ちゃんが楽しそうに貴冬くんのことを話すの…、とてもうらやましかった」
…
「だって、あんなに…楽しそうに話してたの…初めて見たから…」
真美が美奈子をまっすぐ見て話をしていた。
「…なぁ」
「ん?」
「俺たちは、出てようか?」
「う、うん」
「ねぇ…」
「ん?」
「…美奈子先輩と…知り合いだったの?」
貴冬達二人が教室を出て二階と一階を繋げる階段で話をしていた。
そんなときに、こんな話になっていた。
「まぁ…、姉弟関係と言うか…?」
「…美奈子先輩って一人っ子だよね?」
「うっ」
なんでそんなこと知ってるんだろう…。
貴冬はそんなことを考えていると、千恵美は疑うような目で見ていた。
「えーっと…、そのぉ…」
ずいっと近づいてくる千恵美の迫力に圧され気味になる貴冬。
「順を追って隅々まで話しなさい。じゃないと…」
「じゃないと?」
千恵美は俺に手を触れるほどの辺りまで伸ばした。
「…吐くよ?」
どんな脅迫ですかぁ?
「…へぇ…、ふーん」
自分が男性恐怖症、むしろ男性アレルギーだと言う事を棚に上げて自分を人質にするとは…。
恐るべし…。
「そうなんだ…」
それから千恵美は黙ったまま階段に腰を下ろした。
…
「あ、貴冬くん」
「美奈子さん…」
どうやら話合いが終わったみたいだ。
真美はすまなそうに貴冬に頭を下げていた。
「…帰りますか」
「うん、貴冬くん」
校舎内ですでに気づいてはいたが、外は暗くなっていた。
貴冬は千恵美、真美を家に送ることとなった。
そのあとは美奈子と家に帰ることになる。
これで疑いは晴れたかなと思う貴冬。
なぜか晴れ晴れとした気持ちになっているようだ。
それでもやはり美奈子と真美がなにを話したのかは気になっているようだが…。
「真美ちゃんさぁ、男の人…嫌いなんだ」
「…」
「真美ちゃんのお父さん、いつもお酒飲んで、家で暴れて、お母さんに暴力振って…」
「…」
「真美ちゃんにも暴力振って…、それで…」
男が…嫌い。
「貴冬くん、真美ちゃんのこと…嫌いにならないでね。あの子…、変わろうとしてるから…」
「うん。今度は…一緒に…話したいな…」
貴冬は気づいた。
なんだろう、この感覚。
あぁそうだ、なんか…緊張しないんだ…。
慣れたのか…な?
…
明日から、もっと勇気…出してみようかな?
〜
いつも通りに朝起きた。
昨日は色々なことがあったから、学校に行きたくない。
美奈子と顔を合わせるのが…少しつらい。
それに、あの人にも会うかもしれないし…。
昨日、腕を捕まれた所にまだ感触があるような気がする。
そんなことを考えながら家を出た。
いつも通りの登校道。
「……あ」
「あ」
「ん」
会った。
いつも通りがいつもとおりじゃなくなる瞬間。
「あ、あのえっと…」
なぜか二人に会ったとたんに頭がくらくらしてきた。
それと同時にこの場所にいたくない、と言う思いがこみ上げてきた。
!!!
「ちょいまった」
「あぅ!?」
捕まれた。
しかも制服の後ろ首のところ。
慣性の法則で前に行く体をむりやり体を止められたので首がしまった。
涙目になりながら後ろを向いた。
「…あ…う?」
見ると彼は私に手をさし伸ばしていた。
少し考えたけど、これは多分…握手を求めているんだと思った。
「…」
恥ずかしいのか、彼の顔は赤面していた。
なぜかは知らないが、いつの間にか私は彼の手を握っていた。
「今井 貴冬、一年生です。よろしく」
「あ、え。えっと…南 真美、です…」
「うん。じゃぁ、学校行きますか」
そんなこんなでいつのまにか私の隣には二人。
一緒に学校へ行くこととなった。
…
ちらっと横目で彼を盗み見た。
誰にも気づかれないように。
…
私、頑張れる…かも。
〜