〜第一章〜

正しい女子生徒との付き合い方(1)


「き、きゃぁぁ!!お、お、男ぉ!!」

女の子の悲鳴が木霊した。

ここはとある高校。

その清潔感漂う廊下を一人の少年がどたどたと走っていた。

今年から高校生。つまり今現在、十五歳の男の子である。

さて、問題はなぜその高校で『お、お、男ぉ!!』などと叫び声を上げる女子生徒がいるというと…

それは今井 貴冬の今日の朝まで戻って話して行こうと思う。

 

 

 

上京しての翌日、朝食の時間がきた。

実は貴冬自身はこの朝食の時間前にすでに起きていた。

上京しての緊張の所為か昨日はよく眠れなかった上に、朝も興奮してすぐに目が覚めてしまった。

目が覚めても何をするわけでもなく窓の外をじ〜っと眺めていた。

…ホントに…上京したんだなぁ…。

そんな思いに浸っていると、時間などあっという間に過ぎてしまったのである。

「どうぞ召しあがれ〜」

テーブルの前までくるとにこにこ笑顔で美奈子がそう言った。

「あ、はい。いただきます」

そう言って貴冬は前に置いてあるパンをひょいと片手に取って口に運んだ。

う〜ん、さすが都会。朝はパン食…。

そんなことで感動(?)しながらぱくぱくと食を進めていく貴冬。

いや、都会に住んでる人全員がパン食ってわけでは…。

「ぱくぱく」

「にこにこ」

「ぱくぱく」

「にこにこ」

「…あの」

「ん。なぁに?どうしたの」

「ずっと見られていると…」

そう、先ほどから美奈子は貴冬が食事している様をじ〜っとにこにこ笑顔のまま見つめていたのである。

もしかして都会の人は違う食べ方でもするのだろうか?

そんな心配も浮んでくる。

「あ、気にしないでいいよ」

「はぁ…」

めちゃくちゃ気にしますとも。

食事中に、しかもかわいい女の子に見つめられては貴冬自身意味も無く照れてしまう。

しかも彼は女の子との付き合い方はほとんどと言って良いほどわからないのである。

そうして、彼が食事をしている間、美奈子はにこにこ笑顔のままじ〜っと見つめているのであった。

 

朝食が済んで数十分。

美奈子は先ほどまで着ていた服装から制服に着替えていた。

もちろん学校に行くためである。

彼女が支度をしていると言う事は自分も準備しなければいけないのではないだろうか。

そんなことを考えていると

「一緒に学校に行く?貴冬くん」

と、思いがけない誘いに貴冬の心はヒートアップした。

行きます。行きますとも!!

そんな言葉を心の中で何度も叫んだ。が

「貴冬くんは私と一緒に行こう。転校生が来たとあっては皆騒ぐかもしれないから」

いつのまにか現れた祐がそう言った。

さらば美奈子さんとの初登校…。

彼の心の中にそんな言葉が芽を出していた。

 

それから一時間ほど。

そんなこんなでこれから通うことになった高校についたのであった。

「いまは授業中だから誰もいないはずだわ」

「はぁ…」

しかしこの時間帯に来たのでは明らかに遅刻なのではないか?

そんな不安はあったが、校長である祐が言っているのではしょうがない。

職員用の玄関から校舎に入る。

校舎に入ると、貴の言ったとおりで生徒は一人も見当たらなかった。

前を歩いている貴についていくと、校長室と書いてある教室の中へ入った。

中に入ると、一人の女性が立っていた。

「校長、この子が転校生ですか?」

瞳が大きくて優しそうなその女性がそう言った。

どうやら彼女が担任になるであろう先生だろう。と貴冬は思った。

「はじめまして。今井 貴冬です」

そう言ってぺこっと頭を下げた。

「はじめまして。担任の宮田です」

ほら、やっぱり担任だった。

「じゃぁ貴冬くん。宮田先生と少しお話があるから、先に教室に行っててくれない?」

そのあとに祐は『教室は一年五組だ』と付けたした。

「はい。わかりました」

またまたぺこっと頭を下げて、貴冬は自分のクラスである一年五組に向かうのであった。

初めての高校。

他にもいろいろなことで彼の気持ちは高ぶっていた。

「…よし」

一年五組の前までやってきて、がらがらとドアを開いた。

「え?」

女の子である。

そう、教室内を見渡すと、そこには女の子が溢れて(?)いた。

正確に言えば女の子だけである。

男子など全く見当たらなく、貴冬は自分の目を疑った。

貴冬が入った事によって教室中は沈黙に包まれてしまった。

どの女の子もその大きな瞳をさらに大きくして彼を見つめる。

そう、貴冬がこの場所にいるのは間違いであると言うように…。

そのときである。

一人の女の子が第一声を上げた。

 

 

「き、きゃぁぁ!!お、お、男ぉ!!」

そしてなおも悲鳴は続いた。

「な、なんで男がここにいるのぉぉぉ!!」

「いやぁぁ!!へ、へ、変態ぃぃ!!」

などなど。

「うわぁぁ!なんだなんだぁ!?」

そう言って貴冬は一歩だけ踏み入れた位置でいきおいよくおじぎをして廊下へと走り出した。

めざすは校長室、というより他にたよりになるような教室は存在してなかった。

「ストップ!!」

廊下をダッシュしている貴冬を呼びとめたのは校長である祐であった。

「な、な、なんなんですかこの学校は!?」

とりあえず『女子しかいないんです』と言いたかったが慌てていたためかそんな言葉しか口に出なかった。

「ここは、早澤女子高等学校。女子高よ」

「じょ、女子高!?」

「そう、君はこれからこの女子高に通うことになりました」

は?へ?

数分の間、貴冬の頭の中ではクエスチョンマークが右往左往としていたのは言うまでもない。


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